書籍「父が娘に語る経済の話」レビュー

今回はヤニス・バルファキス著「父が娘に語る経済の話」を紹介します。

複雑な経済の概念をわかりやすく解説しているので、経済の基礎を理解するのに役立つ内容です。

タイトル通り「父が娘に」語るように書かれています。

 

 

この本は、父親が娘に向けて語る形式で進んでいきます。著者の親しみやすい語り口と興味深い事例で経済に関心がない方でも楽しみながら学ぶことができます。

 

1章

農業革命

「経済とか市場という言葉を聞くたびに、そういう話はいいやと耳をふさいでいては、未来について何も語ることはできない。」


市場とは交換の場所。市場は大昔からあった。
「農作物の余剰によって、文字が生まれ、債務と国家が生まれた。それらによる経済からテクノロジーと軍隊が生まれた。」

2章

産業革命

経験価値と交換価値は対極にある。
生産の3要素は次の3つ。

「生産手段」「土地または空間」「労働者」
この生産の3要素が突然商品になったのは何故か?グローバル貿易の影響で、農民を締め出すこと(囲い込み)による労働力と土地を商品化。その後、蒸気機関の発明による生産手段の工業化。こうして市場社会が始まった。
イギリスで起きた産業革命によるグローバル化。これにより、格差がものすごい規模に拡大した。

 

3章

「すべての富が借金から生まれる世界」

産業革命の原動力は借金。
最も生産性を上げた者が競争に勝てる。そのため新しいテクノロジーが競争優位の源泉になる。テクノロジーは高くついたので、借金を重ねなければ技術は手に入らない。借金を増やせば利益が増える可能性はあるものの、うまくいかなければ破滅が待っている。起業家の借金と利益と焦りが高まるにつれ、競争はますます過酷になっていく。
こうしてひと握りの人たちが富を蓄積する、という世界になった。

 

4章

「起業家がタイムトラベラーだとすれば、銀行はツアーガイドだ。」

起業家は未来から無限の交換価値をつかみとる。
銀行は現在の起業家が成功できるように、未来の起業家のお金をつかませる。
利益と富を生み出すまさにその仕組みが、金融危機と破綻をも生み出す。

 

5章

悪魔が潜むふたつの市場「労働力」と「マネー」

市場社会を苦しめている、労働市場とマネー・マーケットに潜む悪魔は「人間らしさ」そのもの。
不合理で矛盾した人間の振る舞いと、経済という機械をスムーズに動かしていくことを両立させるには、社会全体を考え直し、大幅につくりかえる必要がある。

6章

「自動化するほど苦しくなる矛盾」

「われわれ人間はテクノロジーの可能性を余すところなく利用する一方で、人生や人間らしさを破壊せず、ひと握りの人たちの奴隷になることもない社会を実現すべきだ。」

7章

通貨になるものの3つの条件

①腐らず長持ちするもの
②持ち運びが簡単で、小分けできる
③その魅力がコミュニティ内の全員にむらなく共有される

通貨を通貨たらしめているのは「信頼」。
中央権力による管理から全員で取引を管理する仮想通貨へ。
仮想通貨の最大の弱点は誰もマネーサプライに介入できない。そのため危機が起きた時にますます危機が深刻になる。
マネーサプライへの介入は、あらゆる層の人々に影響する。しかしその影響が公平になることは決してない。

8章

「宿主を破壊する市場のシステム」

破壊は交換価値を生み出す。
市場社会では競争して利益追求をしていくのが前提なので、人間を公共の利益を考えられない「節度のない愚か者」にしてしまう。
理性あるまともな社会は、通貨とテクノロジーの管理・地球の資源と生態系の管理を民主化する必要がある。
ただし民主主義は、不完全で腐敗しやすい。それでも人類が愚かなウィルスのように行動しないためのただひとつの方策。

 

 

こんなふうに、父親から社会の仕組み、政治や経済、歴史を語ってもらえる人は幸せですね。それが疑似体験できる本です。